本当にあったパチプロのはなし

ちょっと変わった経験談や、ギャンブルとの向き合い方について書いています。

ちんこがチョコチップのパンみたいになったよ 2

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前回からの続きだよ

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「お前、ラーメン屋になるつもりはないか」と小田先生は言った。場所は生徒指導室、時は十五年前、僕が高校三年生だった頃のことである。

 

小田先生は、高校時代、三年連続で僕の担任だった英語教師だ。年齢は当時四十歳くらいで、重量級のプロレスラーのようながっしりとした体型をしていた。アルシンドかフランシスコ・ザビエルかのように、側頭部はふさふさなのに、頭頂部だけが見事に禿げ上がった奇妙な髪型をしていて、別に端正というわけではないのだが、無駄に彫りの深い欧米人のような顔立ちで、その皮膚はやたらと脂ぎっていて、少し気味が悪く、生活態度や服装にやたらと厳しいのも相俟り、特に女子生徒の間では人気がなかった。僕もあまり好きではなかったが、出席日数と成績がぎりぎりだった僕をなんとか進級させてくれたり、煙草を見逃してくれたり、それなりに恩は感じていた。そんな小田先生は、あろうことか、高校三年生の進路指導という、ともすれば人生を左右しかねない重要な場で、進路に迷う純朴な男子高校生に対し、ラーメン屋を勧めたのだった。

 

「俺はな、昔、ラーメン屋になりたかったんだよ。といっても、しっかり店を構えてということではなくて、屋台に憧れていたんだ。深夜の河原にボロい屋台を引いて行って、酔っ払い相手にマズいラーメンを出すのが夢だった」と小田先生は言った。それを聞いて僕は思った。「なに言ってんだこいつ」と。

 

それから十五年後、泌尿器科のジジイから、僕のちんこにあるのは尖圭コンジローマではないと告げられた時、僕が感じたのは、その時と全く同じ感覚だった。「なに言ってんだこいつ」。僕は昨晩ちんこのイボを観察して以来、夜通しでそれについて学んできたのだ。僕のちんこは完全に尖圭コンジローマの症状と一致しているはずだ。

 

怪訝そうな顔をする僕に対し、どこからか取り出したiPadに映る画像検索結果を見せながら、泌尿器科のジジイは言った。

 

「尖圭コンジローマの特徴というのは、その形です。この写真を見てください。鶏のとさかのような、花が開いたかのような、特殊な形状をしています。あとは色。これはバリエーションがあるんですが、基本的には少し赤みが差した色をしています」

 

ふむふむ、なるほど、一理ある。たしかに僕のちんこにできたイボは至って普通のイボだ。その表面にはマスクメロンの表皮のような凹凸があるが、鶏のとさかには到底見えない。色も、赤みというのはまるでなく、使い込まれた乳首のような沈澱した黒色だ。ジジイは腐っても泌尿器科の専門医だ。専門家がそう言うのなら、僕のちんこにあるものは尖圭コンジローマではないのだろう。ということは、当然疑問が出てくるわけだ。尖圭コンジローマでないならば、これは一体何なのか。僕のちんこを彩る夏の大三角は、一体何の為に存在しているのか。

 

「じゃあこのイボはなんなんですかね」という僕の質問に対し、ジジイは信じられないようなことを言った。

 

「だからイボですよ。ただのイボ」

イボはイボであってイボでしかない。そんな当然のことを、なにをお前は不思議がっているんだ。そんな口調でジジイは言った。

 

「いや、なんか病名とかないんですかね」と混乱した頭で僕は訊ねる。

 

「うーん…まあイボだね。ただのイボ」とジジイは答えた。

 

ただのイボ。本当は分かっていたのかもしれない。だけど、僕は名前を付けて欲しかったのだ。デネブやアルタイルやベガのように、僕のちんこを彩るイボにも名前が欲しかった。でもそれは叶わなかった。絶望だった。

 

「とはいえ、処置自体は尖圭コンジローマと変わりません。液体窒素を使って、そのイボが落ちるのを待ちます。それで治らなければ、もっと大きな皮膚科に行って、電気メスで切ってもらってください」

 

僕の絶望を無視し、ジジイは治療法の説明を始める。やはり、医者には感情など無いのだ。人の気持ちを慮るという発想がない。ジジイだって、生まれ落ちた時から医者であったわけではない。純粋な子供だった時代もあるはずだ。でも、それは失われてしまった。勉強をして医学部に入り、泌尿器科を開業し、一日に何本ものちんこを診る過程で、人の心が失われてしまったのだろう。目の前が真っ暗になり、茫然自失とした僕を尻目に、ジジイは処置の準備を始める。僕が気がついた時には、ジジイはどこからか持ってきた大きなスプレー缶と、長い綿棒を手に取っていた。そして綿棒に液体窒素をたっぷりと吹き付け、それを僕のちんこのイボにあてがった。

 

あまりの痛みと冷たさに、僕の身体は跳ね上がり、目からは大粒の涙が溢れ出し、歯がガチガチと震え、さらなる絶望が僕を襲った…ということはなかった。僕のちんこを弄るジジイの手つきは相変わらず荒々しく、サラブレッドのたてがみのような美しい僕の陰毛を幾度となく巻き込んだ。そのことについての痛みは感じたが、液体窒素がイボに触れた際は大して痛くもなかったし、冷たくもなかった。もちろん何も感じないというわけではなかったが、少しちくっとするような、じゅうぶん耐えられるほどの痛みだった。ジジイ曰く、基本的にイボには神経が通っていないから、接触時にそこまで強い痛みは感じないということらしい。

 

「はい、じゃあこれで終わりです。しばらく放置して様子を見てください。それで治らなければ、さっき言ったように、大きな病院に行ってみてください。泌尿器科でもいいけれど、皮膚科の方がより良いと思います」

 

処置を終えたジジイは、満足そうな邪悪な顔でそう言った。僕は呆然としつつもジジイに礼を言い、パンツとズボンを上げ、お辞儀をしながら診療室を出て、受付のババアに金を払い、自転車に乗ってパチンコ屋に向かった。自転車に跨った時に、ぴりっとした、まるで電気が走ったような感覚を下腹部に感じたが、それは気にしないことにした。

 

それから数時間が経ち、怪獣王ゴジラ77verの時短を消化しながら僕が感じていたのは、大当たりの高揚感ではなく、単発打ちの煩わしさでもなく、下半身から感じる、えも言えぬひりつきであった。ちんこのイボと衣服の擦れる、まるで日焼けをした次の日のような、ひりひりとした痛み。我慢できないような激しい痛みではないのだが、ちんこが痛いというのは、たとえそれが蚊に刺された程度のものでも、強烈な違和感を覚えるものだ。考えてもみれば当然の話である。ちんこのイボに液体窒素を吹き付けることで、火傷のような状態にし、瘡蓋と一緒に剥がれ落とそうとする野蛮な民間療法を受けたのだから。

 

僕は今すぐに、ちんこの状態を確認したいと思った。だが、今は時短中だ。時短中に席を立ち、トイレに行くなどあり得ないことだ。いかに甘デジとはいえど、そのせいで連荘が終わってしまえば、一生悔やんでも悔やみきれない。とはいえ僕は大人だし、ある程度の常識も兼ね備えている。いくら違和感を覚えたとしても、パチンコを打っている最中にちんこを取り出し、それを点検するなど、考えるのも恐ろしい。

 

ここでふと、幼少期に出会った伝説の露出狂を思い出す。あれは僕がポケモン緑にどハマりしていた頃だから、今から四半世紀近く前、まだちんこはつるつるで、鼻水を垂らし、鼠色をした巨大なゲームボーイに勤しんでいた年頃のことだ。

 

露悪にして露骨にして暴露の伝説の露出狂。輩殺しの変質者の王。

 

太陽がさんさんと照りつけ、アスファルトから立ち登るもやで視界が歪む真夏の帰り道、僕は彼に出会った。


つづく

 

 

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