昔から「黙ってじっとしている」というのが苦手でした。
学校の授業ならまだしも、入学式やら終業式やら、黙ってじっとエラい人の話を聞くというのが苦手でそのような式典は大嫌いでした。
そんな私ですから当然成人式には参加しませんでして、その日は中学校時代の悪友2人と昼間からお酒を飲んで過ごしていました。もちろん昔の友人と会って色々話をしたいという気持ちはあったのですが、夜に中学校の同窓会があったのでそれに行けばいいかという気持ちだったんですね。
まずはパチンコへ
昼間から私の家でお酒を飲んでいた3人組ですが、同窓会まで時間があるしパチンコでも打ちにいくかとなりました。
確かその時は「冬のソナタ」をノリ打ちしたんだと思いますが、なぜか3人とも絶好調でして、すぐに確変に入りあっさりと1人あたり4万ほどのプラスに。
そのまま夕方まで打ち続けても良かったんですが、ノマれるのも嫌だしなーということでアッサリと退散して飲みなおそうとなりました。早くからやっている居酒屋を探して繁華街を歩いていると、金髪の若いお兄さんに声をかけられました。
「お兄さんーお遊びどうすか?80分2万円、みんな可愛いすよー」
ロム爺との死闘
お酒も入ってたし、パチンコで4万勝っていたので浮かれていたんでしょう。3人とも1分後にはお兄さんが差し出した写真パネルを真剣な顔で見つめていました。
それが皆ビックリするぐらいの美女ばかりなんですよね。
私はワクワクが止まらない状態を悟られないようクールな顔でエミリア似のキレイなお姉さんをピックし指定されたホテルへ向かいました。
お兄さんに電話で部屋番号を伝えると10分ほどしてドアのチャイムがなりました。ワクワクが止まらない状態の私がドアを開けるとそこにはなんと、ロム爺のようなお姉さんが立っていたんですね。
もちろんロム爺似のお姉さんも素敵なんですが、私がお願いしたのはエミリアたんですから骨格レベルで違うわけです。パネルマジックどころの騒ぎではありません。しかも、ロム爺に似ているだけならともかく、日本語も上手く通じません。
「だまされた!」
とは当然思いましたが、来てしまったものは仕方ありません。とりあえずロム爺を部屋に招き入れ話をすることにしました。
最初は丁重にお断りし、帰って頂こうと思ったんですが、ロム爺は片言の日本語で
「オパイーイチマンエーン!オパイーイチマンエーン!」
と繰り返すばかり。
かれこれ15分ほどでしょうか。流石に少し腹が立ち、押し問答の末になんとかロム爺を追い返すことに成功しました。
チンピラ現る
ホテルを出ると友人2人が立っていました。2人ともお相手が流暢な日本語を喋る方だったということ以外は私と大体同じような状況だったようです。
友人のうちの1人は女性のあまりの気迫におされ、僅かながらの小銭を含めて有り金全てを毟り取られてしまったようで、まるでロズワールのように顔面蒼白になっていました。(ちなみにこれは「たけのこ剥ぎ」と呼ばれるボッタクリの一種で、今でもあるそうです。新成人の方はお気をつけ下さい。)
我々は怒っていました。お金のこともそうなのですが、なにより新成人の純粋な心を踏みにじられたことに怒っていました。
「あの兄ちゃん探し出してしめよう。」
ロズワールの一言で我々は血眼になって金髪のお兄さんを探し始めることにしました。内心私は「さすがにもうどっかにトンズラしてるんだろうな。」と思っていたのですが、なんとお兄さんは我々に声をかけた場所とほぼ同じところで声をかけ続けています。
お兄さんを見つけるや否や、ロズワールはイノシシのような勢いで向かっていき、胸ぐらをつかんでこう言ったのです。
「お前!!きゃねかえしちゃられや!!ほんまぼてこすじぞ!!」
興奮しすぎて何を言っているのか全く分かりません。とりあえず、お兄さんからロズワールを引き剥がし裏路地に入り、私が交渉してみることにしました。
お兄さん曰く、
「あくまで自分はただのキャッチなので関係ない。文句があるならその店の人に言ってくれ。」
とのことでした。
「店の人」というのがイマイチよく分からなかったのですが、とりあえず呼んでもらうことにしたんですね。
10分ほどでしょうか「いらすとや」のこのイラストを2周りぐらいパンプアップさせたような紳士が私たちの前に現れました。
最終決戦
ロズワールはもう完全にビビって戦意喪失していますし、もう一人の友人はもう完全に「私関係ないです」といった雰囲気を放ち始めたので、しょうがなく私が交渉することになりました。
「ここじゃなんやからちょっと事務所いこか。」
と紳士からありがたい提案を頂いたものの、丁重にお断りしその場で交渉を始めたのですが、なかなか話が噛み合いません。こちらが何かを言うと、被せるようにかなり大声で怒号を浴びせてくるわけです。正直泣きそうになりながらも粘り強く交渉を続けていたのですが、全く聞く耳を持ってくれません。
ふと気付くと周りには数名の人だかりができていました。
スーツや袴をはいている人が多かったので、成人式が終わり一杯飲もうと繁華街に繰り出してきたのでしょう。となりますと、当然知った顔もちらほらいるわけで数名が加勢に来てくれたんですね。
加勢に来てくれたといっても特に何かしてくれた訳ではないのですが、血気盛んな新成人の男数名に囲まれて流石に旗色が悪いと感じたのでしょう。紳士の語気は少しずつ弱くなっていき、最終的には
「最初に払った2万円は返す。ホテル代と余計に払った金は知らん。」
という条件で何とか折り合いがつきました。
結果的に私ともう1人の友人はホテル代の4000円のみという軽症で済んだことに満足して同窓会に向かいました。ロズワールは毟り取られたお金と踏みにじられた心に納得できないようで、心だけでも取り返すべく、返ってきた2万円を握りしめ新しいお店に向かっていきました。
さいごに・・・
これは10年程前に西日本のある都市で成人の日に実際にあった話です。大したオチがなくて恐縮なんですが、実際の話なんてこんなものです。
色々話を聞いてみると、ぼったくりでお金を返して貰えるのはかなり稀なケースなようでラッキーでしたが1つ間違えると危ないことにもなりかねません。
新成人の方はぼったくりに注意して楽しい成人式を送ってくださいね。